四月の黙約 · A Silent Pact in April第1話 屋上の風Wind on the roof川瀬 真白振EN四月しがつの風かぜは、まだ冷つめたい。屋上おくじょうのドアが軋きしんだ。風かぜが制服せいふくの裾すそを翻ひるがえす。手摺てすりの白しろい塗ぬりが、ところどころ剥はげていた。「遅おそい」桜井さくらい雪ゆきは、膝ひざのうえに顎あごを乗のせて、こちらを見みた。先さきに来きていたらしい。鞄かばんのそばに、缶かんコーヒーが二本にほん。一本いっぽんは、もう手ての温ぬくもりで曇くもっている。「委員いいんの仕事しごとが長引ながびいた」俺おれ——春日かすが蒼あおは、空あいたほうの缶かんを受うけ取とって、隣となりに座すわった。校庭こうていのサクラは、もう八分はちぶどおり散ちっている。花びらはなびらが、屋上おくじょうまで上あがってこないのが、妙みょうに物足ものたりない。「で。話はなしって?」雪ゆきは缶かんのタブを、指ゆびで一回いっかいだけ弾はじいた。音おとは、風かぜにすぐ消けされた。「黙約もくやく、しよう」「……何なんだそれ」「卒業そつぎょうまで。片思かたおもいのまま、告白こくはくしない。お互たがい」俺おれは飲のみかけのコーヒーを、口くちのところで止とめた。校舎こうしゃの影かげが、午後ごごの床ゆかを斜ななめに切きっている。「片思かたおもい、って。誰だれに」雪ゆきは笑わらわなかった。ただ、サクラの散ちった校庭こうていを見みおろして、小ちいさく言いった。「聞きかないで。聞きいたら、黙約もくやくにならない」風かぜが、またドアを少すこしだけ開あけた。俺おれは答こたえの代かわりに、温ぬるくなったコーヒーを飲のみ干ほした。四月しがつは、まだ長ながい。Mark readNext